控訴審が始まりました
|
書面の交換をした後、控訴人のほうから、井上が5分間の意見陳述を行いました。
次回は、大学の答弁書に対するこちら側の反論を提出することに。最近の大阪高裁は1回で結審することが多いと聞いていたので、まずはホッと一安心です。
次回期日は、9月2日(金)1:15~大阪高裁・別館73号法廷にて行われます。
2011年7月1日
控訴人 井上昌哉
1審判決で和久田裁判官は、私たちの従事していた仕事が「家計補助的労働」であり、家計補助である以上、仕事を失っても生活が崩壊することはないから、解雇権濫用法理を適用させる必要はない、などと述べました。
しかし、本当にそうなのでしょうか?
京大時間雇用職員の仕事は、家計補助の労働なのでしょうか?
京都大学が2007年に刊行した「京都大学男女共同参画推進に関する意識・実態調査」報告書によると、京大で働く時間雇用職員(うち女性が74.2%)において、配偶者を持つ人の割合は、20代で24%、30代で53%、40代で57%、50代で35%、となっています。
逆に言えば、20代職員の76%、30代職員の47%、40代職員の43%、50代職員の65%は、配偶者に扶養されておらず、自らの収入で生計を維持している、という実態が報告されているのです。
報告書の本文においても、「非正規雇用は主婦の家計補助という世間の思い込みに反して、自らが家計維持者である場合も少なくないようだ」という分析がなされています。つまり、1審の和久田裁判官の認識は、現実とはおよそかけ離れた思い込みにすぎないのです。
実際、私たち控訴人2人は、自分の稼ぎで生計を立ててきました。家計補助で働いていたわけではありません。私自身について言えば、農学部を突然雇い止めされた後は、失業手当をもらうことができず、貯金も少なかったため家賃を払い続けることができなくなり、住んでいたアパートを引き払うことにさえなりました。
ところが1審判決は、仮に生活が崩壊したからといって、そのような「家計補助的労働」に自ら望んで就いたお前たちが悪いのだ、という自己責任論を展開しています。これには本当に驚きました。「首を切られるのが嫌ならフルタイムの正規職に就けばいい」という和久田裁判官の物言いは、「パンがなければケーキを食べなさい」と言い放ったマリー・アントワネットそっくりではないでしょうか?
図書館業界は、いまや雇用破壊の最先端です。正規職の司書になることはほぼ絶望的な状況であり、たった1人の求人に対して100人以上の応募が殺到することが通常です。誰もがワーキングプアの非正規職に甘んじることを余儀なくされています。
私たち京大の時間雇用職員は、週30時間上限でしか働けず、フルで働いても1ヵ月の手取りは10万円ちょっとにしかなりません。そこで多くの職員は、ダブルワークで足りない生活費を補っているのが実情です。私は塾講師との掛け持ちをして働いていましたし、小川さんは自分で出版社を興していました。
そして多くの時間雇用職員は、正規職員と変わらぬ仕事をこなしています。目録データベースを作成するという仕事は、図書館における中核的な業務であり、決して補助的業務などではありません。このことは強く強調しておきたいと思います。それに、百歩譲って補助的労働であったとしても、どうしてそれが不安定雇用や低賃金を正当化する根拠になり得るのでしょうか。私にはまったく分かりません。「均等待遇」はいまや世界の常識であり、正規であれ非正規であれ、誰もが安定して働き続けることを望んでいる点では、まったく同じことです。
最後に、「短時間の勤務を望むこと」と「いつでも使い捨てにされる有期雇用を望むこと」とは、決してイコールではありません。大学側の答弁書は、短時間勤務のニーズを有期雇用のニーズへと巧妙にすり替え、あたかも私たち自身が不安定雇用を望んでいるかのように主張しています。
繰り返しますが、不安定雇用を望む者など、誰もいません。
そして、使い捨てにされるのは何より辛いことです。
今後、ワーク・ライフ・バランスの見直しによって、人々の働き方はどんどん変わっていきます。裁判所におかれましては、今後のあるべき雇用のあり方を思い描き、そのための適切な判断を下して頂けたら、と思います。
以上