2010年 11月 27日
9月9日5年条項団交ダイジェスト
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9月9日の団交のダイジェストです。団交のまとめとあわせてお読みください。
【1】5年条項はなぜ必要なのか
5年条項は期待権が発生することを防ぐためにあるようです。つまり、労働法の解雇規制法理をまぬがれようとして作られたものです。大学側は「遵法」だと主張しますが、合理的理由のない解雇を禁止した労働契約法16条に違反しています。
――5年条項の存在理由について、使い捨てでもなければ女性差別でもないし、更新期待権をなくそうとするものでもないとおっしゃいました。それならば一体何のために5年条項はあるんですか? お金のこと、おっしゃってましたが。
塩田(人事担当理事) お金はね、客観情勢。ですから常勤教職員、非常勤職員ともに財政状況が厳しくなっているので、数は減らしていかないといけない。
――財政状況の問題だということですか?
塩田 財政状況と5年が直接リンクするわけではありません。
――とすると、業務の見直しみたいな話?
塩田 業務の見直しは常にやってます。
――客観情勢が厳しい中で、働いている教職員の業務をもっと効率化する必要が生じたってことですか?
塩田 それから、長引くと当然、1年ごとであっても5年を超えると、社会的な状況から、契約終了できない可能性が出てくる。いろんな判例とかでね。そういうことがあるので、専門的な立場から助言を受けてこういう制度に…。
――つまり期待権が発生するってことですよね。
岸本(総務部長) だからそれでは計画的な雇用計画が立たないという…。
――結局、それは脱法を意図してるってことになるんじゃないですか? 矛盾してますよ。
――理事はさっき「脱法行為ではない」とおっしゃいましたよね。
岸本 だって脱法じゃないですもん。遵法してますから。
――だから遵法によって法の拘束を逃れることが、脱法っていうんじゃないですか?
岸本 それを遵法っていうんですよ。
――違法にならない範囲で法の抜け道を探してるということでしょ。
岸本 法の抜け道っていのがよく分かんないんですが…。
――何でそこまでして首を切りたいのかなっていうのが、どうしても疑問なんですけど。
岸本 首を切りたいとか言ってるんではなくて、計画的な雇用計画でマネジメントをしていきたいっていうのが、おそらく大学の各部局の意思なんですよ。
――こういう形で5年条項は問題になってますし、現場でもやりづらいという声が上がってきてるわけですよね。で、大きな社会問題化しているわけですよね。
岸本 いろんな問題を昨年度集約して、全学的議論の中で、こういう条件だったら認めましょうと、いわゆる公募に応募できる条件を認めましょうってところで全学的な合意を得たということです。
――全学的議論されたとおっしゃるけど、現実的には非常勤職員の多くは未組織でね、労働組合に参加していない場合も往々にしてあるわけですよ。そういった「声なき声」というのは、全学的議論の中に当然、反映されてないってことですよね。そのへんはいかがですか?
岸本 いかがですかって言われても、正規の手続きを経て…。
塩田 組織の中にはいろんな意見があって当然ですね。末端からの意見を集約して、部局長会議や人事制度検討会で議論してます。
【2】5年条項当事者からの声
今回、現職の非常勤職員(組合員)がはじめて匿名で参加し、当事者の声を理事に伝えました。
――私は非常勤職員として京都大学でお世話になっている者です。個人的なことですが、離婚して生計を立てなければいけないということで、就職活動を昨年行いました。実感から言いますと、いま大変厳しい雇用状況です。正規職を探す中で、倍率180倍とか、あるいは80倍っていうケースもあって、その中で一刻も早く生計を立てたいという思いで京大に応募し、採用いただきました。
5年という期限がつくとなると、5年先を見据えて、仕事をしながら次のステップを考えていくという状況です。再雇用制度があるというのは大きなことですが、ただ、再雇用になるかどうかは5年目ギリギリでないと分からない。で、5年先まで待つと、私の場合もう40代なので、年齢がいってしまってますます就職活動が不利になるので、一刻も早く次のステップを探さなければならない。
逆に大学側にとっても、やはり次に転職することを前提に人を雇うというのはロスだと思います。例えば新しい仕事を覚えていく中で、会計の手続きを総務課にうかがいますと、とても親切に教えてくださるんですが、そのお互いにとっての労力というのは大きなものだなと感じてます。総務課の方々の中にも派遣の方が増えているという話を聞きました。こちらが質問してもたらい回しにされているような現場の状況もあって、大学にとっても職員にとっても、負担がお互い増えているのではないかなという実感を得ております。そういう中で、より安心して一生懸命働ける環境を求めていきたいという思いで、今日は参加させて頂きました。
塩田 まあ、あなたの状況はよく分かりました。いろいろご苦労さまです。ただ、さっきも申し上げましたようにね、今のような労働条件でずっと働かれると、あんまりあなたにとっても良くないというかね、そういう…。
――じゃあ労働条件上げてくださいよ(笑)。
塩田 いやいや、ですからね、それこそ職員の定員とかそういうのがあってね、それから財政的な問題があって、正規雇用できないという状況が最初にありますのでね。それで非常勤の方に働いて頂いてるという状況なんですけども。職員の採用試験もありますし、他での可能性もありますのでね、ぜひそういうものもトライして、次の道を頑張って頂いたらと思いますね。
――でもこちらはせっかく京大っていういい職場に就けたわけですから、もっと働きたいと思ってるわけですよ。
――正規雇用にトライして頂きたいって、今年何人受かったかご存知なんですか?
塩田 えー、1人…。
――4人。事務は1人ですね。
岸本 今年度は、春の統一採用試験と同じ試験を受けて頂く例年通りの採用者はそれだけですけれども、新たに今年度から、そうでないものも採用試験をして、やろうっていうことを始めますので。
――新卒の問題とは多少、問題を変える、経験を加味するってことですよね。
岸本 加味っていうよりも、むしろそれを重視しようっていうことでの、新しい採用の仕組みですね。
――それはこちらの主張に沿うもので、一定評価してます。ただ、なぜ図書が除外されてるのか、図書系も同じ条件にしてもらいたいなと思います。
村上(人事企画課長) キャリアスキルを考えていく時に、図書系については法人試験と同等程度の専門能力を有したいということで、従前通りの試験を行うということです。
――いきなり正規職員になればいいってお話でもなくて、やっぱり人には事情がありますので、今いきなり正職員に応募しろといってもかなりハードルが高いわけですよ。もうちょっと非常勤でも安定して働けるようになりたいっていうのが、こちらの彼女の要望なわけですので、そこのところ、まずちょっと気持ちを分かって頂けないでしょうか。
【3】現場では混乱が起きている
必ず「公募」を受けねばならないという再雇用制度が、現場に大きな負担と混乱をもたらしています。
――公募による再雇用制度によって、現場が混乱したり、不都合が起こったりしていることはご存知でしょうか? 【具体例を示す】特にどういう部局でこういうことが起こるかというと、5年目の人を切っていくようでは維持できない職場で、働いてる方のことも真剣に考えられて、どうやったら一番いいかなってことを考えられてる人ほど、この5年条項では苦労されてるんですよ。で、あんまり考えてない所は、言われた通りに切ったりしてる。
塩田 こういう可能性も含めて議論してきてね、どうしても必要な場合は、公募してその方も応募できる道を開いたと、いうふうに考えてます。
――こうなったのは、公募っていうのがものすごく負担なんだと思うんですよ。
塩田 どうしてですか?
――ある部局では、公募ってのは本当はしたくないと。実際、その人を続けて採ると決めているのであれば、この公募制度は負担でしかないですよね。現場では、その人たちに続けてやってもらわないと困るわけで、だからいろいろ頭をひねってるんですよ。
――5年条項ってのは無理なんです。現実に合ってないんですよ。5年条項で得する人は誰もいないんですよ。理事、どうお考えですか?
塩田 それは先ほども説明した通りでね、いろんな客観的な情勢、大学の状況、そういうのを踏まえて議論して、最善の方法を作ったということです。
――岸本さんは長いこと現場にずっといらっしゃったわけだから、そのへんの実際困ってるって感覚はお分かりですよね。
岸本 どこまで同じ感覚なのか分かりませんけど、私なりにはいろいろ思う所ありますよ。
――本音では、反対なんじゃないですか? 5年条項。
岸本 それを聞いて何になるんですか(笑)。私は別に個人の立場でここに出てきてるわけではないので。
――でもかなり重い責任は担ってらっしゃると思うので、末端の現場にきちんと向き合って頂くってのはすごく大事だと思うんですよ。
【4】本部への「報告」について
再雇用を行った部局は、本部に詳しい報告をする義務があります。この「報告書」が、再雇用を妨げるプレッシャーとして使われています。
――これ報告書って書いてありますけど、まあ念書ですよね。何か悪いことをした始末書に見えますけれど。
村上 例外的な扱いをする時に、こういう取り扱いですよっていうことを、「分かってますよ」ってことですよね。
――だから一筆でしょ。なんで印鑑まで押さなきゃいけないのか…。
塩田 ですから、どういう職を設定して何人雇うかっていうのは、部局が全部判断するんですよ。この人をこういうふうにして雇いましたというのは部局の責任でやってくださいよと、そういう意味です。
――でも再雇用した人だけですよね。
村上 例外的な扱いをした人はこれを出してると。
――例外的なことを自分たちはしてしまったから申し訳ありませんと。
村上 そんな文言はどこにも書いてませんよ(笑)。
――いやいや「(長期雇用化に伴って生じる経費等の問題の)一切の責任を負うことを申し添えます」って書いてあるじゃないですか。
岸本 これはこういう時の決まり文句じゃないですか。
――これを出さなきゃいけないってことで、事務長はやっぱりビビッてますね。
――少なくとも一般事務については取替えがきく業務である、5年条項を厳格に適用しろみたいな指令が行ってると、何人かの事務長さんが証言してます。「業種によって5年条項の適用は違う」みたいな言い方でされてるみたいで、つまり研究室付け、教室付けの職員と、事務長の管理下にある一般事務の職員とは違うんだと…。
岸本 あの、それだけは言っておきますけど、一切そういうことは言ってませんね。言うわけないじゃないですか。
――言外にも圧力はかけてない?
岸本 それはまったく(笑)。
――大学としては、5年条項は業種に関わらず…。
岸本 それも全部、部局判断ですよってことしか言ってないんだから。
――ただ事務長にうかがうとね、「本部の方針に従って粛々と行ってます」とか、そういう答えが返ってくるんですよ。
――(報告書を)ここまで詳しく書く必要あるんですか?
岸本 こんなの、私が事務長だったらすぐ書きますよ。
塩田 5分で書けます(笑)。
――もう一度確認ですけど、圧力をかけた事実もないし、各部局がすべて責任を持ってやるだけだから、中央事務だろうが教室の人だろうが、5年条項の適用に差異はないということでよろしいんですか?
岸本 そういうことで本部のほうから何か言ったことは一度もないです。
――分かりました。
【5】〝女性差別の抜け穴〟
――たまたま非常勤に女性が多いだけで、まったく差別をしていないとおっしゃいましたが、結果として差別と思われる現象があれば、それが差別になるわけなんですよ。本人の意図ではないんですよね。現状として京大の常勤/非常勤のジェンダーバランスを見ますと、やっぱり女性のほうが多いという実態があるわけですよ。これは国連でも間接差別であると。
岡島(職員課長) いいですか。厚生労働省令や司法判断に照らして考えた場合、京都大学における雇用制度が間接差別であるというのは組合さん側の主張であって、客観的にそれを根拠づけるものはないというふうに大学は考えます。
――日本政府とか日本の裁判所の見解ではないんです。女性差別に関して、日本社会はひじょうに遅れてる面がありますので。特にこの国連女子差別撤廃委員会(CEDAW)の資料ですね、「雇用管理区分が女性差別の抜け穴となっていること」、これは大きな問題であるので日本政府はただちに解決すべきだって何年も言われ続けてるんですよ。雇用管理区分っていうのは、この問題でしたら、常勤/非常勤の差別に当たるんですね。
で、京都大学が単に日本政府の見解に従っていればいいという問題ではなくて、もっと率先して国際社会の水準に少しでも追いつくような姿勢を採るべきだと思うんですよ。
岸本 そういう高邁なお考えは分かりますけれども、一応、国立大学法人っていうのは社会情勢適応を求められてるんですね。社会情勢というのは今おっしゃる国際社会ではなくて、日本のことなんですよ。もちろん給与水準もしかり。
――でも大学は、やっぱり教授が4%しか女性がいないっていうのはまずい、おかしいと思ってアクションプランやってるわけでしょう。
【6】アクションプランに非常勤の待遇改善を!
――日本、日本って言ってますけど、この法人化でいちばん問題になったのは、日本の大学が国際レベルでもう最下位である、先進国の中では。それを文科省が問題化して、もっと競争を公平に推し進めていくべきだっていうのが大きな理念としてあるわけじゃないですか。
岸本 だから、アクションプランを設けて達成していこうという…。
塩田 あのね、非常勤教職員、全部ひっくるめたら男性のほうが多いんです。
――それはTA、RA入れてるからでしょう。これは男女共同参画推進室の資料ですよ。非常勤、補佐員で見たら74.2%が女性というのは京都大学が出してる資料なんですから、それは通じないでしょう。
――アクションプランのほうでも、最初は非常勤の問題を入れるっていう方針だったのが途中でなくなってるようなんで、そのへんの経緯についても次回までに調べといて頂けないでしょうか。
塩田 あの、非常勤職員、ぼくの個人的な経験ですけどね、公募したらほとんど女性なんですよ。応募してこられる方が。
――それはなぜだと思うんですか。
塩田 だから、その職種を選ぶ方が女性…。
――それは一人では生きていけないような給料だからじゃないですか。
岸本 それは分からない。
塩田 その中から採用したら当然、女性が多くなる。
――そのへんをね、変えていこうっていうのがアクションプランだと私は理解してるんだけれども。
――少なくともアクションプランに非常勤のことが書いてないのはおかしいと思いませんか。
塩田 そういう場合に、無理やり男性を増やすんですか、そしたら。それは大変ですよ(笑)。
――そもそも、なんで女性が多いのかっていうことです。
――女性が多いことで、常勤/非常勤の格差が男女格差に結びつくっていうことを議論してるわけですよ。
【7】「短時間正社員」化はどうか
――そもそも絶対的な業務量があって、それをどうこなすかっていった時に、教育研究という業務はずっと続いているわけで、その時に、じゃあ5年かけて養成した人を5年で切っちゃうと、次また新しい人を一から養成しないといけませんよね。ものすごいリスクです。仕事をこなす上でペースダウンすることをどう避けるかと、こう問題を立てて頂いたらどうでしょうか。
塩田 その場合にね、同じ方にずっとやって頂くのは…。
――だから「短時間正職員」みたいな、そういう制度を取り入れて頂けたらいいんじゃないかと思うんですよ。そうすると、正職員なので異動もさせられるし、経験も積ませられる。スキルがずっと溜まっていくんで大学にとっても効率がいい。それから私たち職員にとってもすごくいい環境になるのでね。こういった時間雇用をやめて、5年条項は凍結をして、短時間正職員みたいなひとつカテゴリーを作って頂いてね。そういうふうにやっていかないと、にっちもさっちもいかない。現場、混乱するんです。
で、しかも派遣会社に1年だけいて、次また戻すわけですよ。この人を雇いたいんですって派遣会社に頼むわけでしょ。それは労働者派遣法違反だし、あげくに次また1年経ってクーリング期間終わって雇う時に、紹介料を出せって言われるんです。それはコストパフォーマンス考えた時に、決して良くないですよ。考えてほしいんです。
塩田 おそらくね、これから日本の社会も多様な労働というのが広がってくる。例えば週3日だけ職員として働くと。あるいは勤務時間をフレックスにするとかね。それは今後の検討課題です。
岸本 おっしゃることはよくわかるし、そういうことは検討はしてます。ただもう、今の京大の就業規則だとか、いろんな職種がありますよね。これ、ものすごく複雑怪奇で…。
――だからね、とりあえず今あるのは凍結されたらいい。
岸本 いやいや(笑)。
――新たに、短時間正職員というのを作ってそこにはめこんでいけばいい。「私たちだって試験受けて入ってきてるのに、そうじゃない人がどうよ」って話になるんで、もちろん入社試験にあたるようなことはして頂いて。
塩田 例えば病院でね、医員というのがある。医員は週4日勤務とかいうのが出来てますのでね。そういう例がありますので、今後そういう多様な勤務形態というのはね、やっぱり検討すべきだと思います。だが今すぐにやれって言われたら、なかなか難しい。
【8】5年条項は「無銭飲食」?
――理事ね、時代が変わったんじゃないかと思うんですよ。今年の労働白書も、「人材育成が大事で、細切れ雇用だと技能が育成されないからダメだ」って厚労省が言ってるんです。均等待遇が大事だっていうのは、自治労の委員長も、「正規職の賃下げ分を非正規に回せ」と言ってるんですよ。時代状況が変わったという認識はお持ちなんですか。
岸本 だから去年、(5年条項の)大掛かりな見直しをしたじゃないですか。
――あれじゃダメだったと。
――それね、業務量から見てません。絶対量としてある業務をどうやってこなすかというふうに考えて頂きたいんですよ。今いる職員では無理ですよ。
塩田 といってね、大学へ来る人件費予算は減る一方ですからね。
――それやったら、極端な話がね、お金なかったら無銭飲食していいかっていう話になりますよ。お金がないからといってね、非常勤職員を切っていいかって話。それは違うと思いますよ。
――教員の定年延長してるお金があれば、非常勤のほうに回したほうが社会的にずっと有益なんじゃないですか。
【9】NOと言えない労働者
――派遣村の湯浅誠さんからユニオンにメッセージを頂いてます。「NOと言えない労働者」と書かれてますが、そういう状況なんですね。「知り合いの女性が、雇い止めの恐怖におびえながら、必死でツテとコネを使って再契約を得ようとしていたとき、『こういうふうに生きていくしかない』と言っていた」と。不本意に契約せざるを得ない実態があるんですよ。今回、6年目再雇用された人でも、引き換え条件に、「更新しない」っていう契約書で6年目を約束させられた人もいるって聞いてますしね。
塩田 させられたってことじゃなくて、原則5年ですよということを言ってる。
――でもそれ、NOって言ったら5年で切られちゃうわけじゃないですか。そういう不本意な要求を呑まされる弱い立場にいるんですよ。非正規はね。
――次回までの宿題というか、これについて意見など考えて頂けたらと思ってます。
(2010年9月9日)
【1】5年条項はなぜ必要なのか
5年条項は期待権が発生することを防ぐためにあるようです。つまり、労働法の解雇規制法理をまぬがれようとして作られたものです。大学側は「遵法」だと主張しますが、合理的理由のない解雇を禁止した労働契約法16条に違反しています。
――5年条項の存在理由について、使い捨てでもなければ女性差別でもないし、更新期待権をなくそうとするものでもないとおっしゃいました。それならば一体何のために5年条項はあるんですか? お金のこと、おっしゃってましたが。
塩田(人事担当理事) お金はね、客観情勢。ですから常勤教職員、非常勤職員ともに財政状況が厳しくなっているので、数は減らしていかないといけない。
――財政状況の問題だということですか?
塩田 財政状況と5年が直接リンクするわけではありません。
――とすると、業務の見直しみたいな話?
塩田 業務の見直しは常にやってます。
――客観情勢が厳しい中で、働いている教職員の業務をもっと効率化する必要が生じたってことですか?
塩田 それから、長引くと当然、1年ごとであっても5年を超えると、社会的な状況から、契約終了できない可能性が出てくる。いろんな判例とかでね。そういうことがあるので、専門的な立場から助言を受けてこういう制度に…。
――つまり期待権が発生するってことですよね。
岸本(総務部長) だからそれでは計画的な雇用計画が立たないという…。
――結局、それは脱法を意図してるってことになるんじゃないですか? 矛盾してますよ。
――理事はさっき「脱法行為ではない」とおっしゃいましたよね。
岸本 だって脱法じゃないですもん。遵法してますから。
――だから遵法によって法の拘束を逃れることが、脱法っていうんじゃないですか?
岸本 それを遵法っていうんですよ。
――違法にならない範囲で法の抜け道を探してるということでしょ。
岸本 法の抜け道っていのがよく分かんないんですが…。
――何でそこまでして首を切りたいのかなっていうのが、どうしても疑問なんですけど。
岸本 首を切りたいとか言ってるんではなくて、計画的な雇用計画でマネジメントをしていきたいっていうのが、おそらく大学の各部局の意思なんですよ。
――こういう形で5年条項は問題になってますし、現場でもやりづらいという声が上がってきてるわけですよね。で、大きな社会問題化しているわけですよね。
岸本 いろんな問題を昨年度集約して、全学的議論の中で、こういう条件だったら認めましょうと、いわゆる公募に応募できる条件を認めましょうってところで全学的な合意を得たということです。
――全学的議論されたとおっしゃるけど、現実的には非常勤職員の多くは未組織でね、労働組合に参加していない場合も往々にしてあるわけですよ。そういった「声なき声」というのは、全学的議論の中に当然、反映されてないってことですよね。そのへんはいかがですか?
岸本 いかがですかって言われても、正規の手続きを経て…。
塩田 組織の中にはいろんな意見があって当然ですね。末端からの意見を集約して、部局長会議や人事制度検討会で議論してます。
【2】5年条項当事者からの声
今回、現職の非常勤職員(組合員)がはじめて匿名で参加し、当事者の声を理事に伝えました。
――私は非常勤職員として京都大学でお世話になっている者です。個人的なことですが、離婚して生計を立てなければいけないということで、就職活動を昨年行いました。実感から言いますと、いま大変厳しい雇用状況です。正規職を探す中で、倍率180倍とか、あるいは80倍っていうケースもあって、その中で一刻も早く生計を立てたいという思いで京大に応募し、採用いただきました。
5年という期限がつくとなると、5年先を見据えて、仕事をしながら次のステップを考えていくという状況です。再雇用制度があるというのは大きなことですが、ただ、再雇用になるかどうかは5年目ギリギリでないと分からない。で、5年先まで待つと、私の場合もう40代なので、年齢がいってしまってますます就職活動が不利になるので、一刻も早く次のステップを探さなければならない。
逆に大学側にとっても、やはり次に転職することを前提に人を雇うというのはロスだと思います。例えば新しい仕事を覚えていく中で、会計の手続きを総務課にうかがいますと、とても親切に教えてくださるんですが、そのお互いにとっての労力というのは大きなものだなと感じてます。総務課の方々の中にも派遣の方が増えているという話を聞きました。こちらが質問してもたらい回しにされているような現場の状況もあって、大学にとっても職員にとっても、負担がお互い増えているのではないかなという実感を得ております。そういう中で、より安心して一生懸命働ける環境を求めていきたいという思いで、今日は参加させて頂きました。
塩田 まあ、あなたの状況はよく分かりました。いろいろご苦労さまです。ただ、さっきも申し上げましたようにね、今のような労働条件でずっと働かれると、あんまりあなたにとっても良くないというかね、そういう…。
――じゃあ労働条件上げてくださいよ(笑)。
塩田 いやいや、ですからね、それこそ職員の定員とかそういうのがあってね、それから財政的な問題があって、正規雇用できないという状況が最初にありますのでね。それで非常勤の方に働いて頂いてるという状況なんですけども。職員の採用試験もありますし、他での可能性もありますのでね、ぜひそういうものもトライして、次の道を頑張って頂いたらと思いますね。
――でもこちらはせっかく京大っていういい職場に就けたわけですから、もっと働きたいと思ってるわけですよ。
――正規雇用にトライして頂きたいって、今年何人受かったかご存知なんですか?
塩田 えー、1人…。
――4人。事務は1人ですね。
岸本 今年度は、春の統一採用試験と同じ試験を受けて頂く例年通りの採用者はそれだけですけれども、新たに今年度から、そうでないものも採用試験をして、やろうっていうことを始めますので。
――新卒の問題とは多少、問題を変える、経験を加味するってことですよね。
岸本 加味っていうよりも、むしろそれを重視しようっていうことでの、新しい採用の仕組みですね。
――それはこちらの主張に沿うもので、一定評価してます。ただ、なぜ図書が除外されてるのか、図書系も同じ条件にしてもらいたいなと思います。
村上(人事企画課長) キャリアスキルを考えていく時に、図書系については法人試験と同等程度の専門能力を有したいということで、従前通りの試験を行うということです。
――いきなり正規職員になればいいってお話でもなくて、やっぱり人には事情がありますので、今いきなり正職員に応募しろといってもかなりハードルが高いわけですよ。もうちょっと非常勤でも安定して働けるようになりたいっていうのが、こちらの彼女の要望なわけですので、そこのところ、まずちょっと気持ちを分かって頂けないでしょうか。
【3】現場では混乱が起きている
必ず「公募」を受けねばならないという再雇用制度が、現場に大きな負担と混乱をもたらしています。
――公募による再雇用制度によって、現場が混乱したり、不都合が起こったりしていることはご存知でしょうか? 【具体例を示す】特にどういう部局でこういうことが起こるかというと、5年目の人を切っていくようでは維持できない職場で、働いてる方のことも真剣に考えられて、どうやったら一番いいかなってことを考えられてる人ほど、この5年条項では苦労されてるんですよ。で、あんまり考えてない所は、言われた通りに切ったりしてる。
塩田 こういう可能性も含めて議論してきてね、どうしても必要な場合は、公募してその方も応募できる道を開いたと、いうふうに考えてます。
――こうなったのは、公募っていうのがものすごく負担なんだと思うんですよ。
塩田 どうしてですか?
――ある部局では、公募ってのは本当はしたくないと。実際、その人を続けて採ると決めているのであれば、この公募制度は負担でしかないですよね。現場では、その人たちに続けてやってもらわないと困るわけで、だからいろいろ頭をひねってるんですよ。
――5年条項ってのは無理なんです。現実に合ってないんですよ。5年条項で得する人は誰もいないんですよ。理事、どうお考えですか?
塩田 それは先ほども説明した通りでね、いろんな客観的な情勢、大学の状況、そういうのを踏まえて議論して、最善の方法を作ったということです。
――岸本さんは長いこと現場にずっといらっしゃったわけだから、そのへんの実際困ってるって感覚はお分かりですよね。
岸本 どこまで同じ感覚なのか分かりませんけど、私なりにはいろいろ思う所ありますよ。
――本音では、反対なんじゃないですか? 5年条項。
岸本 それを聞いて何になるんですか(笑)。私は別に個人の立場でここに出てきてるわけではないので。
――でもかなり重い責任は担ってらっしゃると思うので、末端の現場にきちんと向き合って頂くってのはすごく大事だと思うんですよ。
【4】本部への「報告」について
再雇用を行った部局は、本部に詳しい報告をする義務があります。この「報告書」が、再雇用を妨げるプレッシャーとして使われています。
――これ報告書って書いてありますけど、まあ念書ですよね。何か悪いことをした始末書に見えますけれど。
村上 例外的な扱いをする時に、こういう取り扱いですよっていうことを、「分かってますよ」ってことですよね。
――だから一筆でしょ。なんで印鑑まで押さなきゃいけないのか…。
塩田 ですから、どういう職を設定して何人雇うかっていうのは、部局が全部判断するんですよ。この人をこういうふうにして雇いましたというのは部局の責任でやってくださいよと、そういう意味です。
――でも再雇用した人だけですよね。
村上 例外的な扱いをした人はこれを出してると。
――例外的なことを自分たちはしてしまったから申し訳ありませんと。
村上 そんな文言はどこにも書いてませんよ(笑)。
――いやいや「(長期雇用化に伴って生じる経費等の問題の)一切の責任を負うことを申し添えます」って書いてあるじゃないですか。
岸本 これはこういう時の決まり文句じゃないですか。
――これを出さなきゃいけないってことで、事務長はやっぱりビビッてますね。
――少なくとも一般事務については取替えがきく業務である、5年条項を厳格に適用しろみたいな指令が行ってると、何人かの事務長さんが証言してます。「業種によって5年条項の適用は違う」みたいな言い方でされてるみたいで、つまり研究室付け、教室付けの職員と、事務長の管理下にある一般事務の職員とは違うんだと…。
岸本 あの、それだけは言っておきますけど、一切そういうことは言ってませんね。言うわけないじゃないですか。
――言外にも圧力はかけてない?
岸本 それはまったく(笑)。
――大学としては、5年条項は業種に関わらず…。
岸本 それも全部、部局判断ですよってことしか言ってないんだから。
――ただ事務長にうかがうとね、「本部の方針に従って粛々と行ってます」とか、そういう答えが返ってくるんですよ。
――(報告書を)ここまで詳しく書く必要あるんですか?
岸本 こんなの、私が事務長だったらすぐ書きますよ。
塩田 5分で書けます(笑)。
――もう一度確認ですけど、圧力をかけた事実もないし、各部局がすべて責任を持ってやるだけだから、中央事務だろうが教室の人だろうが、5年条項の適用に差異はないということでよろしいんですか?
岸本 そういうことで本部のほうから何か言ったことは一度もないです。
――分かりました。
【5】〝女性差別の抜け穴〟
――たまたま非常勤に女性が多いだけで、まったく差別をしていないとおっしゃいましたが、結果として差別と思われる現象があれば、それが差別になるわけなんですよ。本人の意図ではないんですよね。現状として京大の常勤/非常勤のジェンダーバランスを見ますと、やっぱり女性のほうが多いという実態があるわけですよ。これは国連でも間接差別であると。
岡島(職員課長) いいですか。厚生労働省令や司法判断に照らして考えた場合、京都大学における雇用制度が間接差別であるというのは組合さん側の主張であって、客観的にそれを根拠づけるものはないというふうに大学は考えます。
――日本政府とか日本の裁判所の見解ではないんです。女性差別に関して、日本社会はひじょうに遅れてる面がありますので。特にこの国連女子差別撤廃委員会(CEDAW)の資料ですね、「雇用管理区分が女性差別の抜け穴となっていること」、これは大きな問題であるので日本政府はただちに解決すべきだって何年も言われ続けてるんですよ。雇用管理区分っていうのは、この問題でしたら、常勤/非常勤の差別に当たるんですね。
で、京都大学が単に日本政府の見解に従っていればいいという問題ではなくて、もっと率先して国際社会の水準に少しでも追いつくような姿勢を採るべきだと思うんですよ。
岸本 そういう高邁なお考えは分かりますけれども、一応、国立大学法人っていうのは社会情勢適応を求められてるんですね。社会情勢というのは今おっしゃる国際社会ではなくて、日本のことなんですよ。もちろん給与水準もしかり。
――でも大学は、やっぱり教授が4%しか女性がいないっていうのはまずい、おかしいと思ってアクションプランやってるわけでしょう。
【6】アクションプランに非常勤の待遇改善を!
――日本、日本って言ってますけど、この法人化でいちばん問題になったのは、日本の大学が国際レベルでもう最下位である、先進国の中では。それを文科省が問題化して、もっと競争を公平に推し進めていくべきだっていうのが大きな理念としてあるわけじゃないですか。
岸本 だから、アクションプランを設けて達成していこうという…。
塩田 あのね、非常勤教職員、全部ひっくるめたら男性のほうが多いんです。
――それはTA、RA入れてるからでしょう。これは男女共同参画推進室の資料ですよ。非常勤、補佐員で見たら74.2%が女性というのは京都大学が出してる資料なんですから、それは通じないでしょう。
――アクションプランのほうでも、最初は非常勤の問題を入れるっていう方針だったのが途中でなくなってるようなんで、そのへんの経緯についても次回までに調べといて頂けないでしょうか。
塩田 あの、非常勤職員、ぼくの個人的な経験ですけどね、公募したらほとんど女性なんですよ。応募してこられる方が。
――それはなぜだと思うんですか。
塩田 だから、その職種を選ぶ方が女性…。
――それは一人では生きていけないような給料だからじゃないですか。
岸本 それは分からない。
塩田 その中から採用したら当然、女性が多くなる。
――そのへんをね、変えていこうっていうのがアクションプランだと私は理解してるんだけれども。
――少なくともアクションプランに非常勤のことが書いてないのはおかしいと思いませんか。
塩田 そういう場合に、無理やり男性を増やすんですか、そしたら。それは大変ですよ(笑)。
――そもそも、なんで女性が多いのかっていうことです。
――女性が多いことで、常勤/非常勤の格差が男女格差に結びつくっていうことを議論してるわけですよ。
【7】「短時間正社員」化はどうか
――そもそも絶対的な業務量があって、それをどうこなすかっていった時に、教育研究という業務はずっと続いているわけで、その時に、じゃあ5年かけて養成した人を5年で切っちゃうと、次また新しい人を一から養成しないといけませんよね。ものすごいリスクです。仕事をこなす上でペースダウンすることをどう避けるかと、こう問題を立てて頂いたらどうでしょうか。
塩田 その場合にね、同じ方にずっとやって頂くのは…。
――だから「短時間正職員」みたいな、そういう制度を取り入れて頂けたらいいんじゃないかと思うんですよ。そうすると、正職員なので異動もさせられるし、経験も積ませられる。スキルがずっと溜まっていくんで大学にとっても効率がいい。それから私たち職員にとってもすごくいい環境になるのでね。こういった時間雇用をやめて、5年条項は凍結をして、短時間正職員みたいなひとつカテゴリーを作って頂いてね。そういうふうにやっていかないと、にっちもさっちもいかない。現場、混乱するんです。
で、しかも派遣会社に1年だけいて、次また戻すわけですよ。この人を雇いたいんですって派遣会社に頼むわけでしょ。それは労働者派遣法違反だし、あげくに次また1年経ってクーリング期間終わって雇う時に、紹介料を出せって言われるんです。それはコストパフォーマンス考えた時に、決して良くないですよ。考えてほしいんです。
塩田 おそらくね、これから日本の社会も多様な労働というのが広がってくる。例えば週3日だけ職員として働くと。あるいは勤務時間をフレックスにするとかね。それは今後の検討課題です。
岸本 おっしゃることはよくわかるし、そういうことは検討はしてます。ただもう、今の京大の就業規則だとか、いろんな職種がありますよね。これ、ものすごく複雑怪奇で…。
――だからね、とりあえず今あるのは凍結されたらいい。
岸本 いやいや(笑)。
――新たに、短時間正職員というのを作ってそこにはめこんでいけばいい。「私たちだって試験受けて入ってきてるのに、そうじゃない人がどうよ」って話になるんで、もちろん入社試験にあたるようなことはして頂いて。
塩田 例えば病院でね、医員というのがある。医員は週4日勤務とかいうのが出来てますのでね。そういう例がありますので、今後そういう多様な勤務形態というのはね、やっぱり検討すべきだと思います。だが今すぐにやれって言われたら、なかなか難しい。
【8】5年条項は「無銭飲食」?
――理事ね、時代が変わったんじゃないかと思うんですよ。今年の労働白書も、「人材育成が大事で、細切れ雇用だと技能が育成されないからダメだ」って厚労省が言ってるんです。均等待遇が大事だっていうのは、自治労の委員長も、「正規職の賃下げ分を非正規に回せ」と言ってるんですよ。時代状況が変わったという認識はお持ちなんですか。
岸本 だから去年、(5年条項の)大掛かりな見直しをしたじゃないですか。
――あれじゃダメだったと。
――それね、業務量から見てません。絶対量としてある業務をどうやってこなすかというふうに考えて頂きたいんですよ。今いる職員では無理ですよ。
塩田 といってね、大学へ来る人件費予算は減る一方ですからね。
――それやったら、極端な話がね、お金なかったら無銭飲食していいかっていう話になりますよ。お金がないからといってね、非常勤職員を切っていいかって話。それは違うと思いますよ。
――教員の定年延長してるお金があれば、非常勤のほうに回したほうが社会的にずっと有益なんじゃないですか。
【9】NOと言えない労働者
――派遣村の湯浅誠さんからユニオンにメッセージを頂いてます。「NOと言えない労働者」と書かれてますが、そういう状況なんですね。「知り合いの女性が、雇い止めの恐怖におびえながら、必死でツテとコネを使って再契約を得ようとしていたとき、『こういうふうに生きていくしかない』と言っていた」と。不本意に契約せざるを得ない実態があるんですよ。今回、6年目再雇用された人でも、引き換え条件に、「更新しない」っていう契約書で6年目を約束させられた人もいるって聞いてますしね。
塩田 させられたってことじゃなくて、原則5年ですよということを言ってる。
――でもそれ、NOって言ったら5年で切られちゃうわけじゃないですか。そういう不本意な要求を呑まされる弱い立場にいるんですよ。非正規はね。
――次回までの宿題というか、これについて意見など考えて頂けたらと思ってます。
(2010年9月9日)
by unionextasy
| 2010-11-27 19:53
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